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「ご主人は、恐らく自分が狙われる事を察知していたと思うの。その中で、あなた達を守る為にはどうしたら良いか必死に考え残したものよ。確かに、御主人のした事は人として間違ってる。でも、その裏にはあなた達への思いが詰まっていた…あなた達との生活を守ろうと必死だった。自分がどう思われようと、2人が笑顔で生き続ける事、それだけを願って。ねえ智子…あなたもそう思うでしょ?」
智子さんは、正子さんの話を黙って目に泪を浮かべながら聞いていた。
そして、正子さんの顔を見ながら大きく頷きこう言った。
「ありがとう正子…肩を落として時を流していても何も解決しないわよね。主人の…主人の無念を、私達の手で晴らさなきゃ」
「そうよっ…そうでなくっちゃ智子じゃないわ」
「そうね…泣いてたって、主人は帰って来ないものね」
「うん」
正子さんは、小さな声で返事をしそのまま智子さんの元に歩み寄った。
そして、智子さんの手を握り穏やかに語る。
「さっきご主人を亡くしたばかりなのに…酷な事を言ってるって解ってる。でも、こうやって泣いてる間にも、奴らは何か手を打ってくるかもしれないの。可愛い光一君を守る為…許してね智子」
「いいのよ正子…あなたの言う通りだもの」
「そうと決まったら急ぐわよ。 貴美枝さん、光ちゃんをお願い」
そう言うと、正子さんは智子さんの手を引き素早くリビングを後にした。
正子さんの言う様に、ご主人を数時間前に亡くしたのだばかりの智子さんには、非常に酷な話しだ。
受け入れられず、仲違いの原因になってもおかしくはない。
それなのに智子さんは、あの正子さんの言葉をすんなりと受け入れ、今はしっかりと立ち上がっているのだ。
素晴らしい信頼関係だと改めて関心するが、恐らくそれだけでは無い。
智子さんの中にも、正子さんと同等の無垢な強さが根付いているのだと強く感じた。
「私は、凄い方々と仲間になれたのではないだろうか…」
廊下を走る2人の後を追いながら、私は小さく呟いた。
そして、この呟きは確かなものとなり、正子さん智子さんペアーは、私の想像を遥かに超えた働きを見せてくれる事になる。
出会いは宝…
やはり、私は人間が大好きだ。
第4話▲仲間と涙(前編) 完
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