第1話▲ヒーロー誕生

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次の日、私は彼女の後をつけそのチャンスを伺った。 朝から急いで身支度をし外出した彼女は、キリリとした顔立ちで足早に駅方面へ向かう。 何をしに何処へ向かうのだろうか…私は、ワクワクしながら彼女の後を追った。 到着したのは開店前の駅前デパート。 そして、彼女の向かう先には恐ろしい光景が広がっていた。 デパートの入り口に群がる、中年のオバちゃん達が、今か今かと開店するのを待っているのだ。 このスペインのサンフェルミン祭を思い出させる異様な光景は、言わずもがなデパートのバーゲンに挑む挑戦者達の群れだ。 その中に平然と突っ込み、前へ前へと移動する彼女。 そこで、開店時間。扉が開きドバッと群集は店内になだれ込んだ。 そして一早く彼女が向かったのは、女性物の衣料売り場。 大きなワゴンに山済みされた衣料を鷲掴みし、自分のカゴにいれる。これを3回程繰り返したところで、彼女はサッと向きを変え突進してくる他のオバちゃん達をすり抜け、エレベーター横のベンチに腰を降ろした。 そして、かごの中身を一枚ずつ確認する。 気に入ったのは膝の上に、不要な物はベンチの上、恐らくそんな感じだろう。 そして、選別し終わった彼女は、膝の上の衣料をカゴに移し、ベンチから立ち上がり再び大きなワゴンの方向へ足を向けた。 この一連の作業のタイムは、3分21秒。 とてつもない速さだ…あの丸い身体の何処に、そんな素晴らしい俊敏性が隠されているのだろうか。 私は、益々彼女が気に入った。 さて、彼女はといえば、先程不要と判断された衣料を他のオバちゃんに渡し、そしてそのオバちゃんから数枚の衣料を受け取っている。 これは、ブツブツ交換というやつだな。無駄なエネルギーを使わず、効率良く多くの品を確認出来るシステムだ。 恐るべしオバちゃんネットワーク…私は、拍手をしそうになった。 その後彼女は、レジに向かい一早く会計を終え店を出た。 開店からここまで約15分。これから戦場に向かうべく入って来る人の多い中、沢山の荷物を抱え颯爽と流れに逆流する姿は、まるで鮭の川上りの如く神々しかった。
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