違うけれど、同じもの

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 ボクの熱は彼女に拾われたときから上がったり下がったりを繰り返していました。具合のいいときには一階の工房にある来客用ソファに座り、彼女の作業のほとんどを見ていました。けれど、どうしてもチェーンソーの音だけは苦手で、大まかに舟の形を切り出す作業の時だけボクは逃げ出しました。  工房には大きな窓が一つあって、そこからぽっかりと空が見えました。来客スペースも工房スペースも一つの部屋の中にありましたが、窓から入ってくる光によって暗い場所と明るい場所が生まれ、まるで別の空間のように感じました。  彼女の座る作業椅子の近くにある壁には、先が細かったり、V字型をしていたり、三日月のような丸みを帯びていたりする彫刻刀と、大きさの違うハンマーがたくさん並んでいて、博物館のような雰囲気でした。その道具の多さからも伺えるように、彼女の関心は彫刻にあったのだと思います。  彼女は多くの時間を彫刻に費やしていました。彼女が彫るブーゲンビリアの装飾は、陰影がはっきりとしていて、花びらが今にもひとひら、舞い落ちていきそうな存在感がありました。静かな工房に彫刻刀の音が響くと、ボクは静粛な気持ちになりました。  けれどボクは、彼女に拾われたときにも聞いた、カンナをかける音が一番好きでした。彼女の彫る豪奢なブーゲンビリアが嫌いなわけでは決してありませんが、彫刻される前に行われる、徹底的に滑らかな木の表面を作るためのカンナがけの作業が、ボクには特別な儀式のように思えたのです。  チェーンソーで荒々しく切り出された舟のようなものが、カンナによってすぅるり、と音を立てながらまっさらな送り舟そのものに変わっていく様子を見ていると、そこに「ある」ものをもう一度見つけだすような幸福をボクは感じるのです。目の前にあるものがボクの目の前に「ある」のだと実感できるのは、すばらしいことだと思います。
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