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「……たす、け……」
馬鹿の一つ覚えみたいに助けを求められて、割れた窓から男へと手を伸ばす。
だが当然ながら、標識で座席に貼り付けられた体はびくともしない。
それどころか、無理に動かそうとしたおかげで男には激痛が走ったようだ。
「あぁァァぁァァッ……」
汚い悲鳴が、静かな空間に響き渡った。
苦痛に満ち溢れた聞き苦しい叫び声だが、とても心地いい。
「すみません、標識が邪魔で……そうだ、救急車」
今初めて気が付いたかのように口にして、背後を振り返る。
後ろに来ていた彼女と目が合い、そして二人で無言のまま頷いた。
彼女が携帯電話を取り出すのを見てから、再び男に視線を戻した。
「今、救急車を呼びますからね」
痛みに気を失いそうだった男の目に、再び僅かな光が生まれた。
この期に及んで、まだ助かる見込みがあると思っているようだ。
「どうせ、助からないでしょうけど」
感情を込めない声で低く言い放つと、男の顔が引きつった。
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