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「救急車が来るまで持っても、その先は持たないでしょうね。どうせなら、最期に一服どうですか?」
最小限の動作で自分のポケットから取り出したのは、一本のタバコだった。
この男が普段から吸っている銘柄だ。
「ほら、咥えて」
何を言われているのか理解できないという顔を向けられたが、男の震える唇にタバコを押し込んだ。
背後で、救急車を要請している彼女の声が微かに聞こえてくる。
「火点けますね」
軽く周囲を見回し、自分と彼女以外誰もいないことを改めて確認してから、取り出したライターをタバコへと近づけていく。
僅かに開いたままの男の口元からは、言葉にならない声が漏れている。
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