プロローグ

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「駄目ですよ、ちゃんと吸わないと。火が点かないですよ? せっかくの最期の一服なんですから」  荒くなっている呼吸が功を奏したのか、タバコに火が点った。 「良かった、火点きましたよ。最期の瞬間まで、どうぞ味わってください。ああ、そうだ。さっきも言いましたけど、ガソリンが漏れているみたいですよ。ちょうど、貴方の下を流れています。ほら、見えませんか? 今の角度だと、落としたら引火するかもしれませんね」  男が何か言いたげにこちらを見る。怒りや恨みという感情はなく、ただ恐怖と絶望が顔に浮かんでいる。  ああ、とてもいい気分だ。  どれほどこの日を待ちわびただろう。  この男の絶望する様をいつまでも見ていたい気分だったが、袖を引かれてふと我に返った。
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