3 粉浜商店街にて。

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 それから数日後。夕方4時頃、理沙は美月の予防接種のために小児科へ向かっていた。赤ちゃんサークルで教えてもらった、先生が優しいと評判の小児科だった。 「ちゅーしゃ、いやあああー」  美月は家を出たときからずっと泣いている。どこへ行くのかと聞かれたので、正直に注射と答えたのが失敗だった。美月の泣き声が粉浜商店街のアーケードに響き渡る。理沙はいたたまれない思いでベビーカーを押す足を速めようとした。と、そのとき、 「あらあらどうしたん?泣いてんの」  また、知らないおばさんが話しかけてきた。理沙は一瞬そのまま通り過ぎようかと思ったが、ふと思い直して立ち止まり、答えた。 「今から予防接種なんです」 「そうなんかー、それはイヤやんなー。でも注射しとかんと、病気になったらこまるからなー。がんばりやー」  おばさんは美月に向かってそう言うと、笑いながら去って行った。美月は知らないひとに話しかけられてびっくりしたのか、少し泣き止んだ。  それからも、しゃくり上げる美月に向かって、様々なひとが話しかけてきた。八百屋のおじさん、買い物中のおばあさん。その度に理沙が説明すると、みんな美月を励ましてくれた。
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