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「ここじゃあ話しづらいから」と連れていかれたのは、生徒指導室とは名ばかりの物置のような部屋だった。特別教室が並ぶ棟の一番奥、ほとんど誰も立ち寄らないエリアにあり、周囲はしんと静まり返っている。なのに入り口のドアが防音仕様になっていることをその閉め心地で確認し、軽く驚く。ほかの生徒に聞かれてはまずい話をするときのための部屋なのだろう。
中は資料がぐちゃぐちゃに詰められたロッカーやキャビネットが空間の大半を占めていて、真ん中には長テーブルがひとつとパイプ椅子がいくつか乱雑に置かれていた。香坂はその中からひとつ、比較的ボロボロではないものをひとつ俺に寄越し、自分も適当なものに腰掛ける。入り口をふさぐように座られたことにはすぐに気づいた。
「言っておくけど出席日数のことは口実じゃないから。おまえあと五日休んだら卒業できないからね」
「えっまじか」
いきなりがその話題で拍子抜けした。前に似たようなことを言われたときは遅刻でも早退でもとにかく出席さえしていれば良いからと言われた気がする。それならば大丈夫かと思うが、脳裏に雅の顔が浮かぶ。俺はあいつに逆らえない。もし学校に行くなと言われたら。あるいは、監禁でもされたら――。想像してこっそりと身震いした。
「それで単刀直入に聞くけどさ、おまえあいつとどこで知り合ったの」
来ると思ったので返答は用意してあった。俺は頭の回転が速いほうではないし、嘘をつきとおせる自信はない。適度に本当のことを話すつもりだった。
「出会い系サイト」
「出会っ……、男、同士の?」
「そう」
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