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「おまえはその……男の人が好きなのか?」
「そうだよ」
はじめて、人に言った。それも、ずっと好きだった人に。心臓の音がばくばくとうるさい。向かいに座った香坂の顔をまともに見られなかった。そこに異様なものを見る目があったら、耐えられない気がした。
でもよく考えれば香坂も昨日辻とキスをしていたのだ。そう思って、その事実をすんなりと受け入れられている自分に軽く驚いた。
「そうか。……気づいてやれなくてごめんな」
じわりと、視界が潤む。だめだ、もう香坂のことはあきらめると決めたのに。見知らぬ女の子にあんなことをして、雅にあんなことをされてきて、俺には香坂に優しくしてもらえる資格なんてないのに。なのに俺は今、受け入れてもらえたことがこんなにもうれしい。
「それで、俺の兄だってことは本当に知らなかったのか?」
「今朝はじめて知った」
兄。改めて香坂の口から聞くと妙な感じがするが、眼鏡を外した香坂の目と、雅の目元は本当によく似ていた。そういえば香坂は今銀縁の眼鏡をかけている。予備だろうか。顔を合わせないようにしていたからずっと気づかなかった。
「あいつは……雅は、俺の兄だ。事情があって名字は違うが、れっきとした血の繋がった……」
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