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想像が、できない。あまりにも綺麗で何をして様になっている目の前の男と、惨めな幼少時代を送ったという雅が。本当に俺が聞いていい話なのか。胸がドキドキした。
「それで俺が中三のときにね、実の息子である俺にまで手を出そうとしたんだよ」
「えっ……」
「エグいでしょう? まあそれで女が駄目になったんだよね。そんだけ人の人生歪ませておいて、勝手に男と心中しちゃったよ。最後まで勝手な人だった」
雅はそっと目を閉じた。そして冷たい風にも負けてしまいそうなほど小さな声でぼそりとつぶやいた。
「俺は……楓になりたかったのかな」
「……楓?」
だれ、と問う前に答えが返ってきた。
「ああ、弟」
弟だった。雅の弟ってどんな人だろう、とも思ったが、それよりも引っかかるところがある。
どこかで聞いた名前のような気がしたのだ。そもそも人名として普通に使われている名前なのだから聞いたことはあってもおかしくないのだが、それにしても、どこか身近で聞いたような気がする。数少ない名前を把握している人間関係を挙げていくが、どれにも当てはまらなかった。
「同じ家で同じように育ったのに、どうしてかやたらまともに育っちゃってさ。どうして俺だけこんなに歪んだかね」
「みや……」
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