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 そんなもどかしいやり取りをしながら車から降りる。先に行く雅のあとに続いて入り口へ向かうが、今時自動ドアではないその入り口は内側から開いた。気づいた雅が足を止め、その背に思い切りぶつかった。 「ぶっ」  無様な声をあげて一歩下がる。中から出てきた人に譲るため、雅も当然身を引くと思っていた。なのにその背は一向に動く気配がない。疑問に思って脇から前を覗き込み、――目を見開いた。 「香、坂……」 「あ、鷹羽、なんで?」  いつも通りのヨレヨレのスーツに身を包んだ担任だった。どこに住んでいるのかは知らないが、そもそもこのあたりは学校からも遠くない。香坂は部活ももっているし、休日出勤の帰りなのかもしれない。  煙草と財布を手にした香坂は、なぜか俺よりもひどく驚いた顔をしていた。まるで死人でも見たかのようなその目は、しかし俺に向けられていない。俺の前にいる人物を食い入るように数秒間見つめ、そして、 「雅……?」  驚いたことにその名を呼んだ。  どうして香坂が雅の名前を? 驚きふたりの顔を見比べて、絶句した。覗き込んだ雅の顔は恐ろしく無表情だった。俺は人の顔からここまで表情というものが抜け落ちるのを初めて見た。  数秒の間のあと、雅はこちらを振り返ることはせずに、しかし香坂を丸っと無視して俺に尋ねてきた。 「ねえ慎也。もしかしてこの人君の担任?」 「え、うん……」 「そっかあ」     
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