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 何が何やら、頭がいっぱいだった。香坂が、雅の弟。雅は、香坂の兄。それだけではない。この様子を見るに、香坂は雅の異常性を知っていて、そして二人はおそらく……憎しみあっている。 「あっはははは、何て運がいいんだろう。そっかそっか、慎也は楓の大事な大事な生徒なんだねえ……」  突然雅が天を仰いで高笑いする。その狂ったような笑い方に香坂も一瞬たじろぎ、一歩体を引く。その隙をついて雅は体を反転させると、ついさっき降りたばかりの車の後部座席に俺を押し込んだ。 「ちょ、雅? 何を……」 「いい様だね、楓。おまえの大事な大事な生徒はもう俺のものなんだよ?」  戸惑い這い出ようとするが、強い力で押し込まれてシートに転がり込んだ。ドアが閉められ、その向こうで駆け寄った香坂と雅がもみ合いになっているのが見えた。ガラス越しにくぐもった声が聞こえてくる。 「どういうことだ、おまえ鷹羽に何を!」 「おまえが救ってやれない可哀相な慎也くんを俺が大事にしてあげるって言ってるんだよ」 「救って……? 何を」  香坂の眼鏡が弾き飛ばされて飛んでいく。雅が殴ったのかもしれない。あ、と思って香坂の顔を見、ぎょっとした。  どうして今まで微塵も気づかなかったのだろう。眼鏡を外した香坂の顔は実は目を瞠るほど整っていて、そして、雅のそれにとてもよく似ていた。     
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