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「慎也。慎也」 「あっ、や、みや、び……」 「慎也は俺のだよね? 楓のものにはならないよね?」 「ひ、う……み、や……」 「はは、楓から奪ってやった……。ざまーみろ」  今の俺は、雅の歪んだ香坂への対抗心を満たすための道具でしかなかった。俺ではなくてもいい。香坂の生徒だったら誰でも。俺の意思や気持ちなど関係ない。  よく手入れされたふかふかのシートに、ぽた、ぽた、と滴が垂れる。だめなのに。何かを望む権利など俺にはないはずなのに。なにが悲しくて泣いているんだ俺は。 「う……ぐ、ふぅ……」  嗚咽が噛み殺せない。悲しいと思う資格なんてない。俺はこんな風に扱われて当然の人間なんだから。誰に必要とされるはずもない、大切に思ってもらえるわけもない。なのに止まらない。 様子のおかしい俺に気づき、雅の動きが止まった。  唇を噛み締めて涙をこぼす俺を見て、きょとんと目を丸くする。今はじめて俺を認識したかのような顔。その表情に心が抉られた。 「折角……分かりたいと思えたのに」  涙と一緒に言葉がこぼれる。ひどいだけの人ではないのかもしれないと。俺の歪みを本当に理解してくれるのではないかと。少しだけ、期待していたのに。     
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