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学校帰り、バス通学の根津洋一は雨の中傘を差してバス停に向かって歩いていた。
委員会で遅くなったからか、雨が降っているからか、人は疎らにしかいない。
もうすぐでバス停が見えてくる、という時だった。
ふと、傘も差さず、フードを被ったびしょ濡れな青年を見つけた。
青年は、植え込みの煉瓦の上に座って項垂れていた。
気分が悪いのか、その前に風邪を引きやしないか、根津は心配になって傘をその青年に差し出し、声をかける。
「あの、大丈夫?」
「……」
青年は顔を上げた。青年の目は黄色く、ネコのような細い目をしていた。
無言で根津を見つめる青年。
その表情からは何を考えているのか分からない。
「…あの、良かったらこれ、使って。このままだと風邪引いちゃうよ?」
根津は傘を差し出す。が、青年は取ろうとしない。
仕方がないので、根津は青年の手を取り、無理矢理傘を握らせた。
青年はゆっくりと、根津から視線を外し、傘の方へと向ける。
やはり何を考えているのか分からない。
が、根津は青年に傘を渡したことに満足し、頷いた。
「それじゃあ、僕は行くよ。くれぐれも体調には気をつけてね」
幸い、ここからバス停までの距離は短い。
急いで行けば、あまり濡れずに済むだろうと考え、根津は青年に別れを告げ、その場から去った。
残された青年は、遠くなっていく根津の背中を見ていた。
そして、うっすらと笑みを浮かべた。
「……」
青年は立ち上がり、根津から貰った傘を差したまま、歩き出した。
これが、根津と青年の初めての出会いだった。
そして、ここから全てが始まったのだ。
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