子鹿の恋は前途多難?

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 汗ばんだ手をおしぼりで念入りに拭って、やっとケイと視線を合わせることができた瞬間、「お待たせしました」という声と共にドアが開かれて、ビールとお通しを載せたトレイを持った店員が入ってきた。  咄嗟に視線を外す廉の様子を気にすることもなく、テーブルにジョッキと小鉢を置いた店員が一礼して去っていく。 「とりあえず乾杯しようか」  ジョッキを持ち上げたケイに(なら)って、目の前のそれを手にする。 「乾杯」 「か、乾杯」  掛け声とともにジョッキを合わせると、こつりと鈍い音が小さく響いた。  熱を持った掌に心地よい冷たさを感じながら、ジョッキに口を付ける。喉を滑り落ちる冷たさが、熱を持った躰に沁みわたっていく。  ジョッキをテーブルに置いた途端、深く息を吐きだした廉に再びケイが肩を震わせ始めた。 「レンくんって可愛いね」  堪えるのをやめたのかくすくすと笑いながらの言葉に、なんだか可笑しくなって廉も噴き出してしまう。 「ケイさんは笑い上戸ですね。てか……可愛いなんて初めて言われました」 「そうかな? じゃあ、初々しい?」 「それもないです」  笑ったことで緊張が解れ、いつもの調子が戻ってくる。 「顔立ちは凄く美形なのに、反応が可愛いんだよね」  にっこり微笑むケイの方がずっと美形だと思う。  確かに、線が細くどちらかというと女顔だけれど、自分で美形だと思ったことはない。 「それはケイさんだと思いますよ」 「え? 俺の反応可愛い?」 「いや……そうじゃなくて……」  たぶんわざとずれた答えをしているのだろうと思いつつも、つい真面目に返してしまう廉に、収まりかけたケイの笑いが再び空気を揺らした。 「ごめんごめん」  戸惑う廉に気付いたのだろう、笑いをビールで流し込むようにしてケイが顔の前で手を合わせてみせる。 「いえ、なんか……俺こそすみません」  ぺこりと頭を下げる廉に、 「ふふ。でもね、反応が可愛いなと思ったのは本当なんだ」  そう優しく微笑まれたら、可愛いと言われたこととかなんか、もうどうでもよくなってしまった。 「どうする?」 「え?」  なにがどうするなのか解らずに、思わず聞き返す。
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