子鹿の恋は前途多難?

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「自己紹介。会ったばかりだし、抵抗があるなら俺はレンくんのままでいいんだけど。任せるよ」  本当に廉がどちらを選んでも良いと思ってくれているのだろう、向けられる視線が包み込むような優しさを感じさせる。その視線に、ありのままの自分を知って欲しいと思った。 「ケイさんが嫌でないのならお願いします」  姿勢を正し、真っ直ぐ見つめて答えた廉に、ケイが笑みを深める。 「じゃあ、年上の俺からね。蓮川(はすかわ)慧吾(けいご)、30歳。製薬会社の研究員をしています。どうぞよろしくね」  軽い会釈と共に告げられたプロフィール。声に出さずにその名前を復唱する。 「み、水無月廉、26歳です。仕事は電機メーカーの営業をしています。こちらこそ、よろしくお願いします」  職業病で、スーツの胸ポケットから名刺入れを取り出し、1枚抜いて差し出しながら深く頭を下げる廉から名刺を受け取って、慧吾も脇に置いていた鞄から名刺入れを取り出した。 「あんまり使わない名刺だけど、良かったら貰ってね」  1枚抜き取って廉の前に差し出す。受け取ってみたそこには、誰でも一度は耳にしたことのある大手の製薬会社の名前があった。     
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