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狭いワンルームのベッドサイドに置かれた目覚まし時計が刻む秒針の音がやけに耳障りで「寝ようかな……」と、ぽつりと呟きサイトを閉じようとカーソルを動かした瞬間、『ダイレクトメールが1件あります』の文字が画面に映し出された。
ダイヤルボックスにカーソルを動かす手が小刻みに震えて、煩いくらいに早鐘を打つ心臓を落ち着けるように、乾いた口唇を舐めて潤す。舌が辿った跡がひんやりと口唇の熱を奪っていくのと比例するように、少しずつ手の震えがおさまっていった。
『レンさん、DMありがとうございます。確信が持てないとのことですが、悩んでいるのであれば相談に乗りますよ。 ケイ』
短い文章を目にした途端胸が熱くなる。冷やかしだと思われても仕方ないのに、相談に乗ると言ってくれたことが嬉しい。おさまりかけた鼓動が再び跳ね上がり、込み上げる想いに胸が詰まって、液晶に浮かぶ文字が滲んで見えた。
――ああ……本当は誰かにこの中途半端な自分を受け入れてもらいたかったんだ。
数行のメールの文字を何度も目で追って、じわじわと込み上げてくる喜びを噛みしめる。
「……返事しなきゃ」
どれだけそうしていたのか、ハッと我に返って時間を確認すれば、メールを受信してから5分ほどしか経っていなかった。
『ケイさん、お返事ありがとうございます』
キーボードを打ち込む指先が、逸る気持ちにミスタッチするのすらももどかしく感じながら、ずっと同性にしか興味を惹かれないでいる自分を受け入れられないでいたことや、認めたくなくて女の子と付き合ったときの違和感などを、今さっき知り合った顔も知らない『ケイさん』に宛てて打ち込んでいく。
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