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思いのほか長文になったそれを送信した後で、本当は社交辞令のつもりだったのにこんな相談を持ち掛けられて迷惑だったんじゃないかなんて思えてきて、座椅子の背凭れに背中をぐっと押しつけた廉の口唇から後悔の深い溜息が零れ落ちた。高揚していた気持ちもスーッと波が引くように消え去って、返事を見るのが恐ろしくなってくる。
そもそも返事なんて来ないかもしれない……。判決が下されるのを待つ犯罪者のような気持で動きのない画面をじっと見つめたまま、あと5分待っても返事が来なかったら寝ようと決めて時計の数字が増えていくのをまんじりともせずに眺めていた。
あと少しで5分が経過する頃になっても、メールを受信したというダイヤルボックスは表示されず、落胆と日付を跨いだこんな時間に相手をさせてしまった申し訳なさに駆られながら、いつの間にかきつく握りしめて汗ばんでしまった手を、マウスに添える。
ウィンドウを閉じるためにカーソルを動かした廉の人差し指がマウスをクリックしようと動きかけた瞬間、まるでタイミングを計っていたかのように、ダイヤルボックスがメールの受信を告げた。
閉じるためのボタンからメールを開くためのボタンへとカーソルを動かす指先が、期待と不安で震えるのを感じながらクリックしてメールを表示させる。
画面上に開かれたそれはかなりの長文で、受け入れることができないでいる廉の思いへの共感と同調で溢れていた。
言葉を選んで書かれただろうと感じられる文字を食い入るように読み進めていく。
『そんな自分を受け入れて生きている先輩として、もっと相談に乗ることができるかもしれません。もし良かったら一度会って話してみませんか?』
そう締めくくられた最後の1文を目にした瞬間、胸から溢れて零れだした安堵と歓喜が、廉の頬を1粒の雫となって滑り落ちていった。
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