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金曜の夜とあって、駅前の小さな噴水の周りには、仕事帰りのサラリーマンやめかし込んだ女性が人待ち顔で立っている姿が多く、待ち人が現れては腕を組んだり、肩を並べて歩き去る姿が目に付く。
幾分暖かくなってきたとはいえ4月初旬の夜ともなればまだ肌寒く、汗の引いてきた躰が冷えて震えるのを感じて羽織ったままだったスプリングコートのボタンを掛けた。
ゆっくりと見落とさないように視線を巡らせる。少し離れた街灯の下に立つ、聞いていた外見に酷似した長身の姿を見とめた途端、深呼吸で落ち着いたはずの鼓動が再び暴れだした。
手にした携帯電話に視線を落としているために廉に気付く様子もない、30代というには若く見えるそのひとは、肩下まで伸びた明るめの髪を無造作に結んで細身の長身を明るい色のコートで包み、癖なのか長い脚を緩く開いて重心をかけている右側に躰を傾けている。俯き加減ではっきりとは見えない顔は、かなり整っているように感じられた。
見つめたまま声をかけることを躊躇する視線に気付いたのか、頬にかかった髪を鬱陶し気に掻き上げながら顔を上げて、こちらを向いたそのひとと視線が絡み合った。
足を踏み出すことができずにいる廉とは対照的に、携帯電話をコートのポケットに入れ、足元に置かれていた鞄を手にすると颯爽と近づいて、みるみるうちに廉の目の前に辿りつく。
「すみません。レンくんですか?」
柔らかな微笑みを浮かべながら呼ばれた名は、廉がサイトで名乗った名前だった。
「は……はい」
「はじめまして。ケイです」
どもりながらの返事を気にすることもなく、にっこり笑う姿に視線を奪われる。
間近で見たケイは、涼し気な切れ長の瞳が印象的で、鼻筋がすっと通りやや肉厚の口唇はなだらかな弧を描いていて、決して女性的ではないのに艶やかな美しさがあった。
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