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不躾なほどじっと見つめる廉に嫌な顔ひとつしないのが、他人の視線に慣れているのだと感じさせる。真っ直ぐに廉へと向けられる視線は、値踏みするような不快な光もない。
「レンくん、お酒は?」
呆けたように見つめたままの廉に、ふっと笑みを濃くして問いかける声は深みのあるバリトンで、耳に心地よく響いた。
「えっと……多少は」
おずおずと答えたそれは小さな声で、かっこよく決められない自分が情けない。
そんな廉の返答に気分を害した様子もなく、「多少ってことは、結構いけるクチだね。行きつけの店があるからそこでいいかな? いつまでも見つめ合ってたら、レンくんの職場の人に会っちゃうかもしれないしね」と悪戯っぽく口角を上げる。そうすると途端に親しみやすい雰囲気になった。
「お任せします」
先ほどよりは落ち着いて答えられたと思いながらぺこりと頭を下げた廉に、「じゃあ、行こうか」と告げると、先に立って歩き出す。その背中を追うように、1歩後ろをついていきながら、廉は優しそうなひとで良かったと、ホッと胸を撫で下ろしていた。
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