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お茶でも一服
「未依ちゃん、お正月なんやから、華やかな着物を着たらええのに……ほんまにこれを着るつもりなん?」
桐の箪笥が並んだ衣装部屋で、お母ちゃんの小言を聞き流し、お祖母ちゃんの紬をそっと撫でた。何度も水をくぐった紬は柔かで指にほんのりと暖かみを感じる。藍色に白い星が飛んでいる地味な紬は、きっと私に似合うやろう。
嫁入り前の娘は、華やかに着飾るべきやと考えているお母ちゃんは、私が選んだ紬が気に入らないみたいや。でも、そんなん無視する。
「せめて、帯だけでも赤いのを締めたら?」
派手好みの母親が出してきた帯を一応合わせてみる。真っ赤な帯は、祖母の紬とは全く似合わへん。お母ちゃんは何時までも、私を子どもだと思っているんや。
「あっちの白い帯の方が似合うわ」
白い地に墨絵で一輪梅の花が描いてある名古屋帯は、娘が締めるにはこうと過ぎると眉を顰めたが、お正月は他にも用事が一杯なんで、お母ちゃんは諦めた。
「お姉ちゃん達が来るまでに、着替えなあかんで」
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