本屋さんと目覚めかけの病人

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 しかも普通の人間には一度ハメると見えなくなるため、読子の感じたとおりに目覚めかけてこそいるがまだ普通の人間である青年には見えていない。この店に保管してあったアーティファクトの一つである。  これまでの短い対話で読子は彼の存在を発病しかけの異人症だろうと予想していた。異人症の人間からは先祖返りの影響か独特のフェロモンを読子は感じ取ることが出来るが、力に目覚めていないのに匂いが漂うというのは発病したら一気に手遅れのパターンに多い。  だから目の前の彼が目覚めないようにと読子はアーティファクトで病気にふたをしたのだ。 「店長さん?」 「アナタの未来に幸あることを。無病息災のおまじないです」  解放された青年は小首を傾げながら人魚書店を後にした。読子の予想通りに事が進めば彼があの病気に目覚めることはない。そうすればあの青年は無事に過ごせるだろうと読子は勝手なおせっかいを焼いた。  彼は数日もすれば、日々の忙しさにこのことも記憶の片隅に追いやってしまうだろう。  風俗帰りの同僚と合流した彼は数日後には日本を発ち、そして出張先である事件に巻き込まれる。  その結果が読子にとっては予想外のモノになるが、それを読子が知ることも、そして青年の身に起きたことを知ることも彼女にはなかった。  
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