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私がそうしてテーブルにつかされてる間に出来る事と言えば、彼女が鼻歌混じりに料理を仕込んでいるのを眺めるしかなく……
"暇そうにしてるわね"
頬杖をつきながらも待っていると腰のホルダーから声がするので、取り出してから暇潰しの相手になってもらう事にした。
「見ての通りだ、暇で暇で仕様がない」
"だから相手になれって事ね……"
取り出したのは掌に収まる程の石でそれこそが先程から聞こえている声の主である。
「仕方がないだろう、急ぎで出てきたが故に本を携帯しなかったんだ」
"暇がなくて、出来なかったの間違いでしょう?"
掌の石は声を発する度に点滅を繰り返し、私の痛い所を容赦なく突いてくる。
まぁ、此方としても長い付き合いなのでこんな問答になるのは重々承知しているつもりだ。
「確かに一部はそうだが、全部を認めるとでも?」
"頑なな子ね、もうちょっとノアみたいに柔軟な頭を持たないと魔法使いなんて名乗れないと思わないのかしら"
そう言って、石は一際大きな光を放ちつつも私の掌から離れる。
石は光の中で変化し、その光が弱まるとそこにあるのは石ではなく鎧を着込んだ小さな女性が浮いている。
……学会でもこれについてはよく分かっていない。
本人は "ヴァルキリー" と名乗っており、その性質に似た存在の事もあってか便宜上は精霊の一種であるとされている。
世界に同一個体の精霊がそこそこいる中、未だに他の個体が見つからない。
それこそが目の前に浮いている勇気の精霊 "ヴァルキリー" なのだ。
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