Act.3

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すると彼は私の問いかけに答えることなく、逆に聞いた。 「佳奈ちゃんは? 何の仕事してるの?」 「あ、私は小さなウェブデザイン工房でイラストレーターとして働いています」 「ふぅん。絵が得意なんだ」 「子供の頃は漫画家になりたかったけど、才能なくて諦めたんですけどね」 ペロリと舌を出して、おどけて見せるけれど、彼は笑わなかった。 笑ってくれた方がいいのにと思っていると、彼は柔らかな声で呟く。 「本当につきたい職業につける人なんて、一握りだよ。俺だってそうだったし」 「そうなんですか? 誉さんは何になりたかったんです?」 「俺は……普通のおじさんになりたかった」 「……え?」 唖然とした私の反応に、誉さんは楽しそうに笑っている。
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