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「指を返してって、わけわかんねえよな」
最初それを聞いたのは誰からだっただろう。
最近、急に退職した作業員がいた。これは僕とは違うラインで作業をしている職員からまた聞きで伝わった話だ。
話によるとその作業員は、夜工場を出て帰宅途中、ふいに後ろから呼びかけられたらしい。なんだと思い振り返ると、そこには男の子がぽつんと立っていたという。
――こんな夜中に子供が一人で?
そう訝しく感じた時、自分が見ているこの子供が現実なのかはたまた別の存在なのか危うくなり、急激に寒気を感じた。
『ユビヲカエシテ』
どこにでも転がっている怪談の一種のような話だった。
ここまでならそれで終われただろう。だが、その後この作業員は実際になんらかの理由で指を飛ばし退職してしまったという後味の悪い事実のせいで、僕達はこの話をただの怪談や冗談で済ます事が出来なくなってしまった。
「まいったな。また一人減っちまった」
「洒落になんねえよ。マジでやばいんじゃねえか」
そんな話を聞いた数日後、すれ違う作業員達のそういう話が耳をかすめていった。
――また?
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