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どこかで不安を感じていても、私はこの誘いを断ることなど出来なかった。
何故なら……昨夜、誉さんが癒してくれた古傷が真実を知りたいと疼いているからだ。
「……分かった」
「じゃ佳奈の携帯から電話しておくから」
そう言って恭ちゃんは私の携帯を手に背中を向ける。
恭ちゃんの車の鍵をしばし見つめた私は、覚悟を決めて駐車場に向かって歩き出した。
「おはようございます、我妻です。いつもお世話になっています」
後ろで聞こえた恭ちゃんの声はいつもと変わらぬ、県会議員秘書の我妻恭介だった。
どこか威圧的で、今井部長が最も苦手とする恭ちゃんに違いなかったのに。
私はこの時の彼の変化に気づくことなど出来なかったんだ───。
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