Act.9 Side H

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『螻蟻潰堤』 その名の存在に気づいたのは、3ヶ月ほど前からだった。 一部のマニアが利用するような海外の動画サイトに、螻蟻潰堤というハンドルネームで妙な動画が投稿されるようになった。 一番最初に螻蟻潰堤が投稿した動画は、22年前に篠崎楓が自殺したあの崖の上からの景色だった。 まるで全てはここから始まったとでも言うように。 「またその動画ですか?」 パソコンの画面を覗き込んだ直属の部下、斉木來未は呆れながら俺の隣へと腰かける。 「まだいたの? 今日はもう帰っていいよ」 「室長が帰らないのに、私が帰れると思います?」 「あまりそういうこと、気にしなくていいから」 冷たく突き放した俺に、斉木さんは今にも泣きそうな表情へと変わった。
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