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とは言え、赴任が決まりこの街に戻った時に会ったのが10年ぶりだった。
たった1ヶ月しか住めなかったこの街なのに。
22年間、欠かさず年賀状を送ってくれた健斗の律儀さは彼女と同じ血が流れているからこそなのかもしれないが。
しかし俺の横を歩きながら、本当に楽しそうに笑う彼女を見ているとこの子が楓と同じ被害者だったなんて思えなくなる。
原沢佳奈にとって、22年前の経験は俺が思うほど辛い記憶ではなかったのではないだろうか。
だとしたら俺は……彼女に本当のことを話してもいいのだろうか。
そんな願望が抑え切れずに俺は問いかけた。
「ところで原沢さん、日曜日の出来事は警察に被害届は出さないの?」
「えっ?」
「あの時はまだ、君も動揺していたし、そこで言い出すのもどうかと思ったから触れなかったけど……。
もし出すのなら、今からでも遅くないし俺も付き添いするよ」
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