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そう言って誉さんは、楓さんが命を絶った崖の下を悲しそうに見おろす。
その横顔を見つめながら、私はとてつもなく胸に痛みを覚えた。
「だけど俺は……くだらないことを聞くなと言って相手にしなかった」
「…………」
「きっとあの時、楓は俺に言って欲しかったんだと思う」
「…………」
「楓が死んだら、悲しいに決まってるとね」
母親にまで売られた楓さんにとって、きっと誉さんの隣は唯一の居場所だったに違いない。
だけど……誉さんの想いと楓さんの想いは違ったのだろう。
「……あの時、俺がもっと楓の気持ちを理解していたら、こんな悲しい結末にならずに済んだのかもしれないと、後悔し続けて来た22年間だった」
悲しそうに瞳を揺らす誉さんに、私は大きく首を振った。
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