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斉木さんが何故、こんなにも親切にしてくれるのかは分からない。
初めて会った時、斉木さんは私に怒りとも取れる鋭い視線を向けていたことを思えば、彼女が誉さんに抱く感情は上司と部下という思いだけではなかったはずだ。
おそらくここまでしてくれるのは、きっと私のためではなく誉さんを思うが故の行動なのだろう。
それでも私は、彼女の気持ちに感謝したい。
「斉木さん、ありがとうございました!」
階段の上で、そう言って頭を下げた私に一瞬だけ振り返った斉木さんは、どこか寂しそうに笑うと階段を駆け下りて行った。
その姿をしばし見つめていた私は大きく深呼吸をする。
この壁の向こうで、今、恭ちゃんは何を思って一日を過ごしているのだろう。
この身体に我妻荘介の血が流れていることを知った時から、恭ちゃんはどんな思いで私を見つめて来たのだろう。
様々な思いを巡らせながら、私はゆっくりと壁に据え付けられたインターホンのボタンを押しこんだ。
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