Act.20

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キシと小さく音を立てながら、パイプ椅子に腰かける私を見届けると看守は静かにドアを閉めた。 周りの音など何も聞こえない閉鎖的な空間の向こうが、社会から隔離された留置所であることを痛感する。 カウンターには接見時の注意書きが置かれており、面会が可能な時間は15分しかないこと、差し入れの衣類の紐などは自殺防止のために全て取り外すことなどが細かく記されていた。 その注意書きを見て、思わず目頭が熱くなった。 きっとここに留置されている間に、恭ちゃんも色々と考えただろう。 尊敬して来た父親と我妻というブランドを崩壊させた彼は、もう全てを失ったと考えているかもしれない。 名誉も地位も全てを捨て、妹と信じている私を抱き、己までも壊してしまったと思っているかもしれない。 逮捕から送検され、裁判が終わるまでここに留置される人々は、見えない明日をひたすら格子の向こうで待つのだ。
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