ここは彼女らのお気に入りのお店

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何度も空気を震わせた機械音が止むと同時に、がたん、と椅子が引かれる音がした。 ずっと客席に背を向けていた私は、やはり客の座っている方を見ないまま、レジへと素早く移動する。 「ありがとうございました」 写真を撮り終わり、満足そうにスマートフォンの画面を眺めながらレジに向かってくる彼女らに、私は明るい笑顔を作った。 「お会計はご一緒でよろしいでしょうか?」 「大丈夫でーす」 「かしこまりました」 虹色のネイルが施された手から代金を受け取る。 その爪を見るのと、胸の奥がずきりと痛んだ。 「ありがとうございました」 お釣りを受け取り帰っていく彼女らに、私は深々と頭を下げる。 まただ。 私はまた、一口も食べられずに変わらぬ姿で佇む我が子のことを、見ることができなかった。
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