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その日、学校から帰ると、マンションのエレベーターを降りた所に、緑色の小さな雨蛙がいた。 えっ?何で? こんな所にいたら誰かに踏まれちゃうよ? 当時可愛い少年だった俺は、雨蛙を手のひらに乗せ、今度は外階段を使って降り、マンションの植え込みの所に逃がした。 翌日学校から帰ると、今度は家のドアの前に同じ雨蛙がいた。 嘘でしょ?何で?君の事は昨日植え込みに逃がしたよ? 俺は驚いて、又、手のひらに乗せ、今度は自宅に入れた。 母親に事情を話すと、虫を入れる透明ケースをどこからか出して来て、「亮介、大きな石を取って来な」と言った。 俺はマンションの外から大きめの石を見つけて透明ケースの中に入れてあげた。 雨蛙は石の上に黙って座り、こっちを見ていた。 俺はこのカエルに貞治と名付けた。 名前の由来はもう分からない。 なんせ小学3年生だったし 何となく、貞治だったんだ。 その時の事はよく覚えている。 母親がうちにとっては宝の持ち腐れだったパソコンで調べてくれた。 「亮介~、雨蛙は小さな虫を食べるらしいよ」と、顔をしかめて言った。 俺が「貞治、うちで飼いたい。お母さん、良い?」と言ったら、母親は「無理だよ~。だって亮介エサとってこれないでしょ?」と、被せ気味に答え、当時の俺は悲しくて、誰もいないと、貞治に「君の事は飼ってあげられないけど、僕達はずっと友達だよ」とか何とか話した記憶がある。 翌日、俺は渋々、自転車のカゴに貞治を乗せ、近くの大きな公園の茂みの中のとりわけ大きな葉っぱの上に乗せた。 ここなら悪ガキ共にもイタズラされないだろう所を俺なりに選んだ。
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