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うだるような暑さで身を焦がしながらも、何故こんな窮屈なものを着なければならないのかと、身に着けたスーツを馬鹿らしく思う。それでも自分はしがないサラリーマンで、これが日々の戦闘服という決まりがあるが為に、今日ぐらいはいいだろうと半袖半パンといった夏の少年のように思い切ったサマースタイルに切り替えるなんて事もできない。
結局着るもの一つ抗えない日常にため息をはきつけ、今日も朝の電車に乗り込む。
いつもの時間。乗り込む瞬間に自分の陣取る場所を確認する。
いる。
眼鏡をかけ、茶色のポロシャツにベージュのスラックス。いつも地味な服を着た初老の男性。この男の前に立てるかどうかで、三十分ほどの電車通勤の時間が大きく変わる。
もう四十前半だ。三十分も朝から立ちっぱなしはかなり辛い。それだけで一日に必要な体力がごっそり削られる。
そんな私にとって彼の登場はまさに救世主だった。
どうしても座りたいと思う私は電車内での動向を確認した。私のように一日のスケジュールが決まっている者も多い。毎日乗る電車、時間が決まっている者は、おのずと電車内での位置関係も固定化されてくる。
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