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そこで見つけた。この男性は私より前の電車に乗り込んでくる。どこから乗ってきているかまではもちろん知らない。だが、私が乗り込んだ時点では既に座席シートにゆったりと腰掛けている事から、かなり早い電車に乗っているのだろう。
そして彼は私の乗った次の駅で下車する。このパターンを発見して以来、私は彼の前に陣取るようになった。そして彼が降りた瞬間に入れ替わるようにシートに身体を滑り込ませる。
もふっと背中から腰にかけて包み込む和らいだ感触に、心までもがほぐされていく。些細ながら座って穏やかに通勤出来る事は、幸福と安心をもたらしてくれた。
彼の存在に感謝すら覚えた。ありがとう。あなたのおかげで私の朝は穏やかで平和です。
――え?
しかし平和な日々は、その日を境に唐突にあっけなく壊されてしまった。
彼の前にびったりと、一人の男性が佇んでいた。
白いシャツに黒いズボン。細見の身体。片手には黒い鞄をぶら下げている。正面から顔は見えないが、斜め後ろから見える範囲での様は若いようにも見えるが、老獪じみた空気も纏っている。
――何だ、こいつは。
自分の定位置を邪魔された事への苛立ちと、そいつの異様な存在感に対する不気味さが入り混じる。
結局俺はいつもの位置に立つことが出来ず、近くのつり革をつかみ立ちすくんだ。
昨日まではいなかった。急にそいつは現れた。
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