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ずっと狙っていたのだろうか。あいつもこの位置を。だとすると、こいつはこいつで俺の事を恨めしく思っていたのか。
いや違うか。俺より先にこいつは電車内にいたのだ。だったら俺より先にこの位置を狙う事はもっと早くから出来たはずだ。それとも今までは別車両にいたのか?
くそっ。無駄な事を考えてもどうにもならん。どうであれ俺はいつもの場所を奪われた。
初老の男性が降りた。そして当たり前のようにすっと、そいつが席に腰を下ろす。
一瞬、短く悲鳴が漏れかけた。
席に座り、こちらに身体が向く。そいつの顔を私は真正面からとらえた。
真っ白で、全てのパーツが小さく薄い、能面のような無表情。それが仮面であると言われても納得してしまえるほどに、血の通っていないような顔面。
人、なのか。気味が悪い。
私は思わずヤツから目を逸らした。
突然の略奪者によって座れなかった席。朝からとても気分が悪い。
「はぁ……」
――もうあの席には、座れないか。
*
仕事も定年を迎え、穏やかな日々が始まった。
と、思っていたが、仕事に慣れた身体は自分の意思に反して毎朝出勤していた時間に合わせて目が覚める。
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