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※※※
数日後、俺はもう一度あの場所に来ていた。ユウナが死んだ近くは献花で溢れ、まるでここだけ花屋を切り取ってきたようだ。俺もそこに花束を添える。手を合わせ、目をつぶったその時だった。
「振り向かなければ良かったのにねぇ」
後ろから硝子を転がすような声が響く。
俺は声の主を確かめるべく、後ろをゆっくりと振り返った。
少女だ。人気のない交差点。ぽつんと立っているのだからとても目立つ。
小柄な子だ。肩まで伸ばした髪とワンピースの裾が風と共に揺れた。随分とかわいい子だと思ったが、細い睫毛に囲われた鋭い目が仄かに凛々しさを感じさせる。彼女はそれ以上なにも言わなかった。俺の方を見ているが俺に注意を払っていない。その目は一心に、ユウナの花束へと注がれている。
「君は」
「お兄さんあの日見てた人だよね」
彼女の大きな瞳がこちらを向く。
「ブンチョウも見てたよ」
「ブンチョウ?」
思わず首を傾げる。
「わたしのこと」
自分の顔を指さして、少女はにっこりと笑った。あだ名か何かだろうか。どういう経緯でそんな名前になったのだろう。
「向こうのね、交差点で見てたの」
彼女の細い人差し指が伸び、向かいの歩道を指さす。
俺は首をかしげた。ほかに人はいただろうか。
思い出せない。
思い出せない。
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