お気に入りのあのお店

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今日も都会の迷路を抜けて鉱石喫茶店を訪れた。 「いらっしゃいませ」 いつも通りにマスターが出迎えてくれる。いつものようにいつもの席へ向かおうとしたところで声を掛けられた。 「美咲さん、本日はカウンターへお座りになりませんか」 「ええ、と。カウンターですか、珍しいですね」 私にとって、このお店のカウンター席はちょっと特別だ。特に何がある、というわけではないがカウンターに誰かが座っているのを見たことが無く、何となく特別に感じているというだけなのだが。 「いえ、試していただきたい商品がございまして。よろしければ如何かなと」 「新商品の味見というとこですか。そういう事でしたら」 断る理由も無い。それに常連と認められたような嬉しさもあり承諾した。 「こちらです」 席についてひと心地ついたタイミングでお皿を出された。 お皿の上にはルビーが一粒。 「ルビーですか。以前からメニューにありませんでしたっけ」 たしか赤ワインと蜂蜜を主な材料にしたキャンディだ。少しの酸味と上品な甘さがあり、口に含むとワインの風味が感じられて美味しかったのを覚えている。 既存のメニューを改良したのだろうか。よく見れば目の前のルビーは以前に食べた物より色が鮮やかになっており、本物と見間違うほどだ。 多少疑問に思いながらも口に含んでみる。表面がつるつるしており、うっすらと甘味が感じられた。 「行儀が悪いとは思いますが噛み砕いてみてください。砕いたルビーを口の中で転がすと甘さと風味が増して格別ですよ」 はて、珍しくマスターの口数が多い。普段は食べ方についてどうこう言う人では無いのだが。 ちょいと硬いなと思いつつ、奥歯で何度か噛み砕く。細かく砕かれたルビーが唾液に溶けて南国の果物を思わせる強い風味と、うっすらとアルコールのような熱っぽさが口の中に広がった。深みのある甘さだけど、ねっとりした感じは無く美味しい。これまでに食べたお菓子で一番と言ってもいい味だった。 十分に堪能した後、マスターへ感想を伝えた。 「以前のも美味しかったですけど、これは格別ですね」 新商品の評価が良かったからか、マスターも笑顔を浮かべている。 またこのルビーが食べられるのは嬉しいと思っていると、マスターから衝撃的な言葉が出てきた。 「実は先程のルビー、お菓子では無くて本物なんです」
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