宝石を食べる人

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宝石を食べる人

マスター曰く本物のルビーを食べた日から数日が経った。 あの日はいやいやまさか御冗談を、とマスターと話をしながら追加で頼んだ藍晶石とお茶をいただいて帰宅したのだが、普段冗談を言わないマスターが最後までルビーの件について否定をしなかったのが気になっている。 確かに見た目と触感は本物のルビーと間違えそうな程だったが、人間が噛み砕けるようなものだろうか。そもそも味はしないと思う、あんな美味しいものでも無いだろう。 やはり本物の宝石を食べられるなんて思えない。思えないのだけれど。 ところで水晶やアメジストなどの鉱石、これらは専門店に行けば飴玉サイズなら中高生のお小遣いでも買える値段だったりする。お高いお菓子くらいのもんである。 そういうわけで私の目の前には先程買ってきた水晶がお茶と一緒に自室のテーブルに置いてある。嘘か真か分からないなら試してしまいましょう。 水晶の中程に犬歯を立てる。飴に比べれば硬いだろう、とグイと力を込めたら水晶が割れた。 ルビーに比べれば味はシンプルだ、氷砂糖に練乳の風味を足した感じだろうか。奥歯で砕いて口の中で転がしてみると、やはり甘さと風味が強くなって美味しい。溶けた後も口の中にミルクの風味が残っており優しい味だった。 それと、アルコールのようなほんのりとした熱っぽさ。 お茶を飲んで水晶の風味を流す。うん、美味しかった。適当に買ってきた水晶だったが鉱石喫茶店のお菓子に引けを取らないと思う。いやそれにしても。 「マジか……」 水晶食べれたよ私。普段行かない鉱石の専門店、そこで適当に買ってきたものなので確実に本物の水晶である。誰かのイタズラで実はお菓子だとかそんな言い訳は出来ない。
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