3人が本棚に入れています
本棚に追加
結婚後
結婚してから、同僚がとてつもなく家庭的になった。
家のことをするのはむろん、前は飲み歩きが常習だったような男が、仕事が終わると脇目もふらずに一目散に家へと帰って行く。
よっぽど奥さんのことが好きなんだなと、部署内のみんなでひやかしていたのだが、先日、どうやらそれだけの理由ではないのかもしれないと気がついた。
その日は、大きな仕事が片付いた打ち上げの飲み会がある日で、さしもの同僚もそれは仕事の一環みたいなものだからと、久方ぶりに飲みの席に顔を出した。
一次会は和やかに終わり、明日が休みということもあって、ほとんどの参加者が二次会に行くことを承諾した。その中には件の同僚もいたのだが、移動前に電話がかかってきて、路地裏に引っ込んだ。
俺は他の参加者に場所を教えてもらい、同僚が電話を済ませたら案内役をしてやるつもりで待っていたのだが、なかなか電話が終わらない。だから悪いと思いつつ路地裏を覗いたのだが、その時、視界に信じられない光景が飛び込んだ。
スマホを手に、もう一軒寄って行くと同僚は訴えているのだが、奥さんが許さないらしく、電話はなかなか終わる様子を見せない。
そんな同僚の真後ろに、結婚式で一度だけ見かけた奥さんが立っているのだ。
通話相手は会話の様子からして奥さんなのに、どう見ても本人がそこにいる。それだけでも充分おかしな光景だったが、奇妙なことに、同僚は奥さんの存在に気づいていないようだった。
最初のコメントを投稿しよう!