粉になったAのこと

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 胸や足や脇や顔、体中を触って、A、A、と呼んで、もう何も反応がなくなり動きもせず、そのときようやくAが死んでしまったことに気づいた。頭の中はごちゃごちゃで、だって夜までは元気だったのに、と繰り返すことしかできなかった。前日は久しぶりにご飯も散歩も元気でよく吠えて、だから、この暑ささえ乗り切ればまだ大丈夫だと思ったばかりだったのに。  前の晩は父と二人で花火大会に行った。少し早めに散歩をして、家の前の通りを小さく回った。ゆっくりだったけれどAは比較的普通に歩き、お行儀よくトイレも済ませて、帰りは自分の足で階段を上ることだってできていた。ご飯は最近いつもしていたように、ささみのお菓子を四本千切ってお皿に並べて、その上にドッグフードをまぶして食べさせた。ドッグフードはほぼ食べなかったけれど、大好きなお菓子は完食した。お皿を出すと一生懸命こちらに歩いてきて、早くちょうだい、早く食べたい、という顔をして、だらだら涎を流していた。  ご飯を食べた後、Aはいつもの専用ベッドから全く動こうとしなかった。私は両手を体の下に差し込んでいたずらをした。嫌がるAは慌てて起き上がり、驚いたのか三本足で跳びはねた。ようやくケージに入ったAの頭を撫で、おやすみ、と言った気がする。しこたま酒を飲んだ後で、私は泥酔しており、記憶もあやふやだった。
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