粉になったAのこと

4/12
前へ
/12ページ
次へ
 父が起きたとき、Aは排泄物まみれで、体中が汚れていたそうだ。父はそれを片付けるために一旦Aを風呂に運ぶか玄関に運ぶか悩んだ末、片付けを済ませたら散歩に行こうと玄関までAを運んだ。掃除している間に今度は玄関で粗相をしてしまった。  また片付けなければ、と父がAに目を向けるとぐったりとした様子で転がっていたという。玄関に移動した段階ではまだAは自力で立っていたが、既に立つことも叶わない状態だった。そのとき、もうだめだと父は悟ったのだという。何度も名前を呼んで、途方に暮れているところへ私が起きて来たそうだ。  数週間前からAはご飯をほとんど食べなくなった。しばらくは一粒ずつ手渡ししたり水をかけてふやかしたりすれば飲み込めたのだけれど、ここ一週間ほど全くドックフードを食べようとすることはなく、苦肉の策としてお菓子の上にフードを置き偶然口に入るようにと工夫していた。  同じ頃から後ろ脚を引きずるようになった。以前から片方の後ろ脚は少し痛そうにして歩いていたのだけれど、いよいよ両脚とも悪くなってしまった。フローリングの上で少し脚の間隔が開くとずるずる開脚してしまい真っ直ぐ立ち続けることが難しい状態だった。階段を上る際も両脚を揃えて跳ねるように歩いていた。  更にここ数日は呼吸もおかしかった。少し歩いただけで息を荒らげ、いくら休んでもその乱れが収まることはなかった。家に居て寝そべっているだけのときもずっとその調子で、眠っている間さえもとても苦しそうにしていた。昨年撮ったレントゲンには、肺の辺りに腫瘍ができていたので、それが進行していたのかもしれない。  Aはずっと苦しかったと思う。自分で動くこともできず、全身で苦しい苦しいと私たちに訴えていたのだろう。寂しがり屋のAのことだから、本当はずっと傍に居て欲しかったと思う。私たちが見て見ぬふりをしていただけだ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加