冬の歌声

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「なんっだよ、あの女、知らないんだったら絡んでくんなよ」  見た目どうり、かなり気の強そうな女に、俺は怒りの気持ちを抑えきれないまま、廊下を歩く。 「正村君は屋上じゃないかな?」  俺達の後ろをついて来ていた夏輝がボソッと言った一言に、俺達は「そうか」と共感し、パタパタと走りにくいスリッパで全力疾走する。そう言えば小さな頃、「廊下を走るな」と、よく怒られたものだが、いつからかそんなふうに怒られることはなくなっていた。  息を切らして、たどり着いた屋上のドアを開ける、勢いよく俺達を通り過ぎた風の先には正村が寝転んでいた。 「うぃっす、正村君」 「んん?」  さっきまで、寝てましたと言わんばかりに、大あくびをしてこっちを見ながら上半身を起こす。 「ちょっと聞きたいんだけど」 「何?」 「お前バンドやってる?」  眠気眼だった正村の目は大きく見開き、立ち上がった。百八十センチはあろう長身の彼は、こうして見ると本当にイケメンだ、男の俺から見てもそう思える程だから、女子うけは相当だろう。 「なんで知ってんの?」 「雑誌にメンバー募集出した?」 「うん、え? じゃあ――」 「俺達も、バンドやってんだよ!」  正村が言うよりも先に俺が言うと、後の二人も頷きながら笑っている。 「こいつがドラムの公秋。その隣がベースの夏輝。で、俺がギターの直登」 「じゃあ、お前ら......」 「ボーカル探してたんだよ、俺ら」 「マジか!!」  全員が顔を見合せる―――― 「「やろうぜ、バンド!!」」 「フォー!! やった、全パート揃ったー!!」 「冬馬、よろしくな」  夏の訪れを待つ天気の中、男子四人のはしゃぐ声が空に響き渡った―――― 「あ、ちょっと待って」
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