交わる彩り

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「セーフ!」  ガラガラと勢いよく教室のドアを開ける、両腕を広げてポーズをとり、辺りを見回すと、席に座っている全員が振り返り、俺達に注目する―― 「ギリギリ、セーフにしてやるから、早く席に着け」  今にも授業を始めようと、教科書を持った先生が、呆れた口調でため息をつく。 「公秋、お前はアウトなー」  騒つく教室で誰かの声が目立つ、 「え、なんでだよ!」  そのやり取りで、どっと笑いが起こる。こんな時に弄られキャラが場をごまかしてくれるから有難い―――― 「あ、春風君......」  小声で声をかけて来たのは、隣の席に座っている、委員長の彩那綾乃(さいなあやの)だ、真面目を絵に描いたような性格と格好、俺はこの女が苦手だ......  授業中に寝ていると、起こしてくるし、少しでも遅刻しようものなら、人差し指でズレた眼鏡を上げながら、口うるさい小姑のように、ギャーギャーと鬱陶しかった―――― 「あ? 何」  なにもこんな時に小言を言わなくてもいいだろうと、ぶっきらぼうに答える。どちらかといえば、俺は派手なグループの女子が好きだ、だからこの女との会話は極力少なく済ませたい―― 「雑誌......先生に見つかりそうだったから、中に入れといたよ」  小声で言われたその言葉で、【バンマス】を机の上に置いたままだった事を思い出した。  慌てて机の中に手を入れると、雑誌の感触が指に伝わる、もし今この雑誌を取り上げられると、俺は発狂してしまうだろう。危なく俺がモンスター化してしまう前に、珍しくこの女は正しい判断をした。 「悪りぃ、サンキューな」  こいつ、結構いい所あるじゃん、思わず笑顔になると、はにかみ俯く彩那。  安心した俺に強烈な睡魔が襲いかかる――  さて、寝よ......  学校が終わると、バイト、そして帰ってからのギター練習、基礎練習の繰り返しは毎晩遅くまで続き、時にはギターを抱いたまま寝ていた日もあった――――  その為、睡眠時間はもっぱら、授業中となる。  両腕を枕代わりに、うつ伏せに上半身を倒すと、一瞬で闇の中へ吸い込まれる――――  ***
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