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――――楽器屋?
そこは「何でも揃う」を、うたい文句にしている、楽器最大手の店だった。
「ここ、ここ」
それほど音楽に興味の無かった俺は、楽器屋に足を踏み入れた事すら無い。
そそくさと店内に入る公秋と離れないように、俺も後から着いて行く。
辺り一面、色々な楽器が飾られてあって、見るもの全てが新鮮だった。ピアノの音が聞こえる方を見ると、小さな子供が、ポンポンと電子ピアノの鍵盤を押している姿に足を止める。
更に奥へと進む公秋の姿を見失わないように、小走りに後を追うと、開けた大きなスペースがあった。
ギター?
壁一面に吊るされたエレキギター、下にも所狭しと並べられている。
「これこれ、どう?」
「どうって、言われても......」
公秋の質問に俺は答え方が分からないまま、ただ呆然と立っていた。
「かっこいいだろー」
吊るされている丸くて黄色いギターを目を細めて眺める公秋、「そうか?」と言うのが俺の率直な意見だったが、公秋の表情を見ると、それを言葉には出さない方がいいと悟った。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
気がつくと、俺達の後ろにいた店員が話しかけてきた、恐らく、公秋の表情を見て、接客に来たのだろう。
「あ、いえ、大丈夫――」
「音、出してみます?」
俺が帰ろうとすると店員は公秋が釘付けになっているギターを手に取った。
「えっ、いいんですか!」
何という驚きようだ、まるで子供がオモチャを買って貰うかのように目を丸く輝かせている。俺はその光景に恥ずかしさを通り越し、呆れていた――
「おい、帰るぞ」
小声で公秋に言ったが、聞こえていなかったのか、もしくは、無視されたのか、壁から下ろしたギターを持つ店員と一緒にパイプ椅子に腰掛けた。
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