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 もちろんこれは御伽噺です。  ある処にスイカの大好きなお姫様がいました。彼女は毎月、自分と同じ名前 の少女を城に呼び、自分の大好物のスイカをごちそうしました。  その日、一人の少女だけはそのスイカを食べようとはしませんでした。  どうしたものかとお姫様は声を問いかけます。 「なぜ食べないのじゃ?」  よもや姫様のせっかくのごちそうを拒絶するなど、臣民にあるまじき行為。 侍女たちはやきもきしながら少女の様子を見守ります。 「わたしは人として生きたいから」  お姫様は片方の口を吊り上げて、奇妙な笑みを浮かべます。 「ならば問う、そなたの名はなんと申す」 「私の名は……」  言えるはずはありません  その昔、この国ではその名に肖りたいと、姫の生まれた年に同じ名をつける 女児が多かったといいます。でも、神経質な王は姫の名を騙って国を乗っ取ら れるのではないかと考え、それゆえに城内で姫と同じ名を名乗ることを許しま せんでした。名乗れば不敬罪され極刑となります。 「なんと申すのじゃ」  お姫様の強い口調が城内に響き渡ります。  そしてこの国にはもう一つ、厳しい法律がありました。 『誰何せる門衛に口を閉ざし者は間諜とみなし極刑となす』  簡単に言えば、城内において身分を証明できないものは敵国のスパイとみな して死刑にするということです。  つまりお姫様から名を問われたが最後、答えようが答えまいが残酷な結末に しかなりえないのです。  お姫様と同じ名の少女は、当初百人近くもおりました。ところが毎月行われ る、姫とのお近づきのパーティでその数はどんどん減っていきつつあります。  ある者は間諜とみなされ処刑にされ、ある者は不敬罪として処刑され、そし てある者は精神に異常をきたし国から追放されました。  はて、姫が十八の誕生日を迎えるまでに姫と同じ名前の少女は何人残るので しょうか?  この残酷な運命の少女たちを『スイカ』と呼んだのはお姫様が最初です。も ちろんこの国に西瓜という果実のような野菜は存在しません。  さらに、初めて出されたごちそうもスイカという名前のものではありませんでした。                                 了
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