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昼下がりの住宅街を、ひとり歩いている芽衣。
土曜日の午後なので、あまり怪しまれない。
これが、平日の午前中だとヘイトが集中してしまう。
どこからか、警官がやってきて、学校はどうしたのかと質問される。
おそらく、ご近所のお節介焼きが通報してくるのだろう。
世間一般では、それが常識なのかもしれないが芽衣からすれば、迷惑な話である。
その度に、無干渉フィールドを展開してやりすごす。そんな、やり取りが、何十回と繰り返されていた。
戸籍のない芽衣にも、帰る場所がある。
ひとつは、オーバーライトシステムのメインコンピュータが設置されている、旧下川邸。
しかし、ここには月に一度しか戻らない。
その日に、一日かけてシステムの、メンテナンスを行う。
それ以外の日は、『砂時計』という名の喫茶店の二階の一室に居候している。
店主の名は『鷺沼恭子』。店は独身の恭子が切り盛りしている。
もともと、知り合いでもなんでもない。
けれど、恭子は身寄りのない芽衣を、何も干渉しないという約束で自宅の一室を間借りさせた。
間借りと言っても、金銭は取らない。
その代わり、食事などの世話は、一切しないという約束。
とにかく、お互いが干渉しないというルール。
芽衣は恭子に、一切の迷惑をかけない。
だから、この家に寝泊まりだけさせて欲しいと懇願した。
恭子には、何もメリットはない。むしろ、デメリットしか存在しないと言える。
下手をすると、警察のご厄介になってしまうことすらなりかねない。
それでも、恭子は自分を頼ってきた芽衣を、放っておくことはできなかった。
恭子に辿り着くまで、芽衣は、方々の家を訪ね歩いたが、だれひとりとして彼女のことを信用するものはいなかった。
ただ、ひとり……恭子を除いては。
芽衣はいまでも、恭子の懐の深さに感服している。
いまの自分が存在していられるのは、恭子のおかげだから。
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