過去と現在の秤

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 翔は自ら警察に連絡を入れ、事件は呆気なく終焉を迎えた。  怜は救急搬送されたが、死亡が確認された。  紫藤も保護され、近くの病院に搬送された。  事件現場は晴海埠頭付近の、建築工事が済んだばかりの高層ビルだった。  警備会社に勤めていた翔は、そのビルのセキュリティシステムの管理を任されていた。  犯行を計画していた翔は、セキュリティシステムを操作し、浸入者の記録のすべてを、予め改ざんしていた。  ビルはしばらくは無人の状態で、翔は非番の日に浸入し、犯行の準備を進めていた。  紫藤は芽衣のことばかりに気をとられ、翔に自分の身辺調査をされていたことに、まったく気がつかなかった。  それらが、あの事件に繋がり、最悪の事態を招いてしまった。  怜には気の毒なことをしてしまった。  自分と関わったばかりに、事件に巻き込んでしまった。  しかし、今更そんなことを悔やんでも仕方がない。  なんとか、芽衣とコンタクトを取り、過去へと干渉できるようにしなければならない。  怜は死の直前、自分のことを信用してくれた。  どんなことをしてでも、それに応えなければならない。  病院での検査を終えた紫藤は、私服の刑事に事情を聞かれた。知っていることを、すべて刑事に伝える代わりに、こちらも質問して事件の情報を少しだけ聞き出せた。  犯行時刻は明け方の五時くらい。紫藤が夜食の買い出しをした夜の九時くらいから明け方までの間、怜と紫藤はあの場所に連れていかれ拘束されていた。  刑事の話だと、犯行は翔だけの犯行で、共犯者はいないという。たったひとりで、ふたりの人間を拐う、その手口はかなり手慣れている。  おそらく、事前にある程度のシミュレーションを行い、成功確率を確認してから犯行に至ったのだろう。  麻酔銃は、自分で研究して独自に作ったカスタムメイドという話。殺傷能力は低く、あくまで対象を眠らせるだけのものらしい。  とにかく、翔が紫藤と接触したあの瞬間が勝負どころだろう。彼に主導権を握られるまえに手を打たなければ、同じ悲劇が繰り返される。  あとは、どうやって芽衣とコンタクトを取るかである。
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