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『砂時計』の店の入口に着いた。
昭和なレトロふうの佇まい。
ドアを開けると、カランコロンと、特有のドアベルの音が響く。
「ただいま、帰りました」
カウンター席が五つに、テーブル席がふたつ。
郊外に建つ、こじんまりとした店。
「おかえり、芽衣ちゃん」
客の姿はない。恭子がカウンターの中で、座って文庫本を手にしている。
「コーヒー飲む?」
「いえ……疲れたので、もう寝ます」
「今日、お布団干したから、ふかふかだよ」
「ありがとうございます」
普段の芽衣では、あまり見ることのない笑顔。
店内を横切り、奥の扉を開ける。
階段を上がり、二階へ。
四畳半の和室の部屋に、布団が敷いてある。
布団の傍らには、ウサギの柄のついた寝間着が一組。
手馴れた手つきで、寝間着へと着替える芽衣。
テーブルの上のパソコンを起動させ、『オーバーホール』という名のファイルを開く。
左の鎖骨のあたりを指で押す芽衣……皮膚でカモフラージュされた蓋のような部分が外れ、中からUSBコネクタのついたコードを、引っ張り出す。
コネクタをパソコンに繋ぎ、ファイルを起動させる。
その状態のまま、布団へ潜る芽衣。
恭子の言うとおり暖かくて、ふかふかの布団。
張り詰めた気持ちが、一気に弛む。
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