失意の入口

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 桜が咲いている。  いつの間にか、もうそんな季節なのかと紫藤は思う。  特別に花見などしようとは思わない。  咲いてはすぐに散る。  その儚さにつられ、気には留めるがそれだけのこと。  紫藤の横には、怜がいる。  門倉怜。紫藤とは付かず離れずの微妙な関係。  大学内や、下校のときは一緒にいることが多いが、それ以外ではあまり関わりがない。  ただ、紫藤にとっては、大学内で唯一、自分に声をかけてくる貴重な存在である。  いつも、明るく屈託のない笑顔で接してくる。  張り合いのない毎日を、潤してくれる。  紫藤にとって怜は、そんな存在だ。 「キミは、自分の10年後の未来を、見たいと思う?」  紫藤のお決まりの、妙な質問。 「もう……またですか? 」  うんざりって顔をしている怜。 「興味ありませんか? ご自分の未来になんか」 「べつに、そうじゃないですけど……」 「まぁ、見えたところで、そのとおりの未来が訪れるとは限りませんからね」  それを言ったら、身も蓋もないが。 「なんか、紫藤さんて、いつも他人の過去や未来の話ばかりしてますよね」 「せっかく、科学を学んでいるのですから、時間跳躍とか、そういったことに興味を持つのは、当然のことかと思いますが……」 「こっそり、タイムマシンとか作ったりしてるんじゃないですか?」 「フフ……いまここにいる私は、じつは10年後の未来から来た未来人とか言ったらどうします?」 「……」  青冷めて、言葉を失う怜。紫藤の冗談を真に受けている様子。 「あ……すみません、いまの冗談、そんなにリアルだったですか?」 「もう……驚かさないでくださいよ」  子供のように、拗ねた表情をする怜。  こんなふうに、彼女と他愛のない話ができるのは、あとどれくらいなのだろう。  桜の花びらが、風に運ばれ、怜と紫藤の周りを舞っている。
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